木工DIYで額縁を製作する時の成功の秘訣は、まず隙間なく額縁の四隅の角を45度に切断出来ることです。
別の記事「自作の45度切断治具を使って隙間のない額縁を作る秘訣」で解説したように、額縁のフレームがきちんと隙間なく出来れば、もうそれだけで素人の域を脱した見栄えのとてもいい額縁になります。
恐らく、この記事を読んでいる方は、もうその段階をクリアーした方でしょう。
この記事は、既に額縁のフレームの製作が隙間なく出来るようになった方に向けて、その先の”職人の技”と言える「額縁のちぎり加工」をトリマーを使った治具と額縁の周囲の装飾についてお話を進めていきます。
一般的にちぎり加工と言うと、無垢材のテーブルに天板に自然に出来ている割れを、それ以上広げないように蝶の形をした木栓を埋め込んで割れを防止する加工のことを言います。
額縁のちぎり加工も、基本的には、額の四隅の角を補強するためのものです。
同時にちぎり加工をすると、見える部分は材の木端や木口面のため、濃い色味になるので、そこがデザイン上のアクセントにもなります。
下記は、今回の記事で紹介する自作の額縁用のちぎり加工用治具とトリマーを使ってちぎり加工をしたものです。
【額縁の四隅のちぎり加工】
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この記事を読むことで、強度と装飾性を増すこの額縁のちぎり加工を自分のものにすることが出来ます。
また、後半で額縁の周囲の縁取りをトリマーで加工した実例も紹介していますので、参考にして頂けたらと思います。
尚、ちぎり加工と額の周囲の装飾は、必ずしなくてはならないものではありません。
特に、周囲の装飾を何もしない額は、スッキリとしていて直線的なシャープな印象になります。
ご自分の作る額のイメージに応じて、どんな加工をするかを決めていって下さい。
自作の額縁用ちぎり加工治具
設計図
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治具作成に必要な工具と部材
必要な工具
・差し金(スケール)・・自分で切り出す場合の墨線用
・丸ノコ(のこぎり)・・自分で部材を切り出す場合
・ソーガイド・・のこぎりで部材を切り出す場合
・電動ソライバー・・ネジ止め用
・座ぐりビット
・下穴用 2mm 〜 3mm の穴あけビット
・トリマー・・チギリに使う部材の削り出し用
・10mm ストレートビット(チギリの部材の削り出し用)
*ホームセンターのカットサービスで部材を切り出す場合は、丸ノコやのこぎりは不要です。
必要な部材
・合板:5.5mm x 260mm x 90mm 1枚
・パイン材等: 18mm x 140mm x 20mm 2枚
・合板:5.5 mm x 20mm x 100mmほど ・・ちぎりに使用
・両面テープ
・木ネジ 20mm 3本〜7本
治具の作成手順
この治具の特徴は、トリマーが移動するトリマーガイドになる表(おもて)面と額縁を挟み込む裏面の2面があることです。
設計図の【平面図】は、治具の表面で、【裏側】はその裏側を示しています。
治具作成前の確認ポイント
私の設計図では、表(おもて)面の38mmの位置にトリマーのガイドフェンスが来る寸法になっています。
これは加工の時に使う横溝ビットのベアリングが、額縁に触れずに移動出来るギリギリの距離になっています。
一方、裏面には13mmの位置にに90度で額縁を固定するフェンスがありますが、裏面に額縁が固定されると、その額の頂点は治具と(ツライチ)になります。
この13mmという位置も、これ以上端に近づけると横溝ビットの刃がフェンスを削ってしまいます。
この治具でトリマーに取り付けて使用する横溝ビットは、別の記事「木工用ビスケットとトリマーによる加工方法」で紹介した横溝ビットです。
お手持ちのビスケットジョイント用のビットで、この表(おもて)面 38mmと裏面13mmの位置で大丈夫かどうか、一度確認をしてみて下さい。
もし、この私の設計図上の位置だと横溝ビットが干渉してしまうようなら、表(おもて)と裏の双方のガイドフェンスの位置をビットが干渉しない位置に変更して下さい。
手順の説明は、一応設計図通りに進めて行きます。
治具の表(おもて)面の作成手順
合板の端から38mmの位置に墨線を引き、18mm x 250mm x 30mmのトリマー用ガイドフェンスに両面テープを貼り、仮止めをします。
【トリマー用ガイドフェンスの仮止め】
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その後、いつものように下記手順で裏側からネジ止めをして行きます。
【一発型定規でネジ止位置に墨線を引く】
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【センターポンチでしるしを付ける】
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【ビットの頭が出ないように座ぐりをしておく】
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【座ぐり中央に下穴を開ける】
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【ネジ止め】
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治具の裏面の作成手順
【45度の墨線を引く】
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【治具片側2ヶ所の45度の墨線】
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【治具裏側】
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*このガイドは額縁を固定するガイドなので、ネジ止めは不要と考え、ネジ止めはしていませんが、より強度な固定のためにネジ止めをしても構いません。
【額の角に治具を当てた状態】
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額縁ちぎり加工用治具の使い方
トリマーに横溝ビットを取り付ける
私の使用している横溝ビットは、海外製のため、コレットチャットの交換が必要になります。
コレットチャットのことは、別の記事「木工トリマーの使い方【超初心者向け:初めて触るトリマー】」の中の”トリマービットの軸の径とコレットチャックの関係”と、横溝ビットの取り付け方をこの記事の中で画像を入れながら説明しています。
まだ読んでいない方は、そちらも参考にして下さい。
トリマーのビットの交換時には、電源ケーブルを必ず外しておいて下さい。
トリマーのコレットナットを全て外すと、ビットが押し込まれている中に通常の6mmのコレットチャックを中から取り出し、6.35mmに交換します。
【コレットチャックの交換】
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今回使用する横溝ビットは、横に大きく広がっているビットのため、トリマーのベースプレートを先に入れ、最後に横溝ビットを挿し込みます。
横溝ビットの固定は、下記手順で行ないます。
【横溝チャックの固定方法】
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トリマーのベースプレートを横溝ビットに当たるまで下げ、トリマーのベースプレートの空間に左にスパナの小を上側にはめ込み、スパナの大の方を下にして挟み込みます。
片手で大小両方のスパナを包み、ギュッと握るようにして締め付けて行きます。
横溝ビットの刃の位置を確かめる
治具に額縁をクランプで固定し、作業机の端の方に治具を固定します。
【治具の固定方法】
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*まだトリマーの電源ケーブルは外しておいて下さい。
トリマーをベースプレートに置き、刃の位置が額縁の角の中央になる位置でベースプレートを固定します。
【横溝ビットの刃の固定位置】
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手でトリマーを動かし、下記2点を確認して下さい。
1.横溝ビットの刃が下の治具の額縁のフェンスに接触しないこと
2.横溝ビットのベアリングが額縁に接触しないこと
上記2点が確認出来たら、加工の開始です。
加工の開始
トリマーの電源ケーブルをコンセントに挿し、トリマーのガイドプレートを治具のガイドフェンスにぴったりと沿わせた位置でトリガーを入れます。
通常のトリマーの治具とは違い、この治具でビットが加工を開始する位置は、ガイドの中央手前ぐらいからです。
ゆっくりトリマーを前進させて行くと、中央手前ぐらいから加工が始まります。そのまま前進させると、すぐに加工は終了します。
【横溝ビットの加工跡】
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加工の跡を見ると、加工される面は僅かなことが分かると思います。
以降、加工していない額縁の角を変えながら同じ加工を残り3回行ないます。
ちぎりに使う部材の加工
せっかくちぎり加工という一手間を掛けたのですから、額縁の部材の色とは違う、濃い色味のものを使うのがお勧めです。
トリマーで加工した切断面にちぎりをはめ込むと、見える箇所は木端面か木口面のため、塗装をする際に、額縁とは反対の色味のものにするのをお勧めします。
額縁の本体には良く使われるパイン材の白系統のものを使う場合、ちぎりは濃い茶系の板材でといった感じです。
出来れば、ちぎりにも無垢材を使いたいところですが、逆に言うと木端面や木口面を見せるだけなので、それほど高価なものを使わなくてもいいと思います。
今回はサンプルという意図があるので、合板を使っています。
ちぎりの部材の作り方
トリマーでちぎり加工をした私の所有する横溝ビットの刃先の厚さは、4mmです。
一応、ご自分の横溝ビットの厚みは、ノギスで確認してみて下さい。
そのビットの刃の厚みの幅にちぎりにがぴったり収まる4mmに、合板を加工して行きます。
広い面を均一にするための加工なので、10mmのストレートビットを使います。
10mmのストレートビットが無い場合には、8mmでも結構です。
6mmでも不可能ではありませんが、ビットの径が小さいと一度に削る面積が小さいためその分、時間が掛かります。
トリマーへのビットの取り付け方法は、ここでは省略します。
まだ、トリマーのビットの着脱等のトリマーの基本的な取り扱い方の記事をまだ見ていない方は、下記記事を参照してみて下さい。

トリマーのビットの突き出し量の調整
【トリマーの高さ調整に使うアクリル板】
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上の画像は、厚さ2mmのアクリル板を適当に切り出したものです。
1mm単位でこのような板材や部材を用意しておくと、トリマーの刃の高さ調整をする際に、現物合わせをすることが出来るので便利です。
今回のトリマーのビットの突き出し量を決めるのに、このアクリル板の厚みを利用します。
まず、トリマーのベースプレートに、2本の18mm程度の同じ板厚の端材を向きうように両面テープで固定します。
【両面テープでベースプレートに端材を接着】
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その状態で2枚重ねた4mmの高さになったアクリル板の上に重ねて置き、
トリマーの刃先がアクリル板に接触した位置で刃先を固定します。
【ビットの高さをアクリル板で調整】
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この状態でアクリル板を取り除くと、トリマーは、2本の端材に跨った状態で、作業台から刃先が4mm浮いた状態になったことになります。
トリマーを一度取り除き、作業台の上にちぎりの部材となる5.5mmの合板を裏に両面テープを貼り、作業台の上に固定します。
加工の開始
この段階でトリマーの電源コードをコンセントに挿して下さい。
トリマーが2本の端材の上に乗った状態で、トリガーのスイッチは入れないで下さい。
トリマーのベースプレートが2本の端材に跨った状態は、トリマーの刃先が下の合板に接触しています。
そのまま、トリガーのスイッチを入れると、非常に危険です。
この加工の開始は、「チルトイン」の要領と同じです。
*トリマーのチルトイン加工については、別の記事「トリマーで加工する溝加工の2種類」で詳細を説明していまので参考にして下さい。
トリマーの前方を上げ、刃が加工する合板に振れない状態でトリガーのスイッチを入れて下さい。
回転が安定してから、トリマーをゆっくりと合板の上に下ろし、ゆっくりとトリマーを前進させて下さい。
ただ、治具を使う時のように、トリマーは真っ直ぐに進んでくれません。
しっかりとトリマーを持ち、板材の上全体をゆっくりと何度も往復させながら加工を進めて行ってください。
多少、荒くなった表面があっても、問題ありません。
約10cmほどの長さの表面が均一になれば、充分です。
【挟み込むちぎり板の加工の完成】
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加工が終わった合板の切り出し
加工が終わった合板を先ほどちぎり加工した箇所に接着出来るように20mm 角程度に4枚切り出します。
【ちぎり板の切断】
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ちぎり材の接着
切り出した4枚の合板の裏表に木工用ボンドを貼付し、ちぎり加工した4カ所にはめ込んでいきます。
【ちぎり板をはめ込む】
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ボンドはほとんど、ちぎりにする部材側にはみ出すので、軽く拭き取っておいて下さい。
ちぎりの余分な箇所を切り取る
3時間から4時間放置し、ボンドが完全に乾いた後、左右にはみ出した余分なちぎりの部分を、あさりのないのこぎりで切断して行きます。
ダボの切断と同様、普通ののこぎりで切断すると額縁の淵を傷つけてしまいます。
あさりのないのこぎりでダボを切断することは、別の記事「ダボの使い方と種類|作品の外観をレベルアップさせるダボの使い方」でも説明しています。
【ちぎり板を額の側面に沿わせて切断】
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4ヶ所の切断後、#80 → #120のサンドペーパーでちぎり部分の表面を仕上げて行きます。
【ちぎり加工の完成】
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額縁の周囲の装飾
この記事では、額縁の周囲の面にトリマーで装飾用の加工した場合の実例を2つ用意しました。
トリマーで加工する周囲の面取りは、難易度はとても低いものです。
是非、色々な装飾用のビットで試してみて下さい。
失敗しない装飾用面取り加工の3つの秘訣
難易度は低い加工ですが、多くのビットの種類があるため、その加工する時の感触はかなり違うので、戸惑う方も多いかと思います。
種類は違っても、共通している装飾用面取り加工の秘訣をまず、お話しておきます。
装飾用の面取りビットには、必ずビット下部にベアリング(コロ)が付いています。
加工を開始する前に、横から見てビットの下部にあるベアリングが板材に当たるかどうかを確認して下さい。
板厚が薄いとビットが加工する板材に当たらない場合があります。
装飾用面取りビットは、下部のベアリングが加工する板材に当たることで、周囲をガイドするようにトリマーを誘導して行きます。
もし、板厚が薄く、ビットの先端が作業台に接触してしまう場合には、下に板を敷き、加工する板材と面一(ツライチ)にする必要があります。
一面の加工が終わったら、次の面を敷板と面一にしてから加工を再開する手順になります。
トリマーのベースプレートが傾いていると均一な面取り加工が出来ません。
綺麗な面取りに仕上げる秘訣は、下記3点です。
1.ベースプレートの空いている部分の後ろを包むようにして持つ
2.片手の指先でベースプレートを上から軽く添えてトリマーの姿勢を安定させる
3.加工のスタート地点は、必ず木口面は避け、木端面の途中からスタートさせる
このトリマーの下部を持ち、片手を添えてトリマーのベースプレートの姿勢を安定させることは、トリマーの加工全般に必要な秘訣です。
3.の加工のスタート地点は木口面を避ける理由は、木口面をスタート地点にすると、欠けが発生しやすくなるためです。
これは、トリマーの刃の回転しながら動く方向と木の繊維(木目)方向が一致しないためです。
それに対して、木端面はトリマーの刃の動きと木の繊維方向が一致するため無理のない加工が出来ます。
板材の角に発生した欠けは、修復が難しくなります。
1回の面取り加工で完成させようとしないで下さい。
ビットの形状にもよりますが、削り取る量が多いビットは、少しづつ削って行くのが秘訣です。
装飾用面取りビットは、ベアリングが加工する板材に当たって動くことで均一な装飾面が出来て行きます。
横からトリマーを加工する板材に近づけ、ビットのベアリングが板材に付くまで少しづつ削りながら近づけて行くイメージです。
慣れないうちは、加工の跡が均一でないことを見て失敗したと思いがちですが、装飾用の面取り加工が失敗することは、ほとんどありません。
何度も削る加工を繰り返すうちに、ビットの下部にあるベアリングが板材に当たると、自然に均一な仕上がりになって行きます。
特に額縁の角の箇所は90度にカーブするため、1回では加工が出来ません。
角のカーブ面は、トリマーを前進させるだけではなく、時々後退させながら加工を繰り返して下さい。
2種類のビットの加工例
【ボーズ面ビットの加工】
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ボーズ面ビットで周囲の面取りをする時、下記の画像のように2種類の加工が出来ます。
【ボーズ面ビットの2種類の加工】
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左側が角を全て丸く加工した場合で、右側がビットの突き出し量を多くして、段差を付けた加工です。
上記の画僧は別の記事の「 木工トリマーの使い方【超初心者向け:初めて触るトリマー】」でも紹介しましたが、今回額縁で加工したものは、ビットの突き出し量を多くした場合です。
横から見ると、一段段差が出来て、その下が丸く加工されているのが分かると思います。
【ボーズ面ビットの突き出し量を多くした装飾例】
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【ギンナン面ビット】
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【ちぎり加工なし】
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3種類の額の装飾と完成状態
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まとめ
精度の高い額縁の45度の切断が出来れば、作品はもう、初心者の域は脱した出来ばえになっています。
この記事では、その精度の高い加工が出来ることを前提に、さらにちぎり加工と額の装飾の実例をお見せして、加工の幅を一歩高みに進めて頂く内容です。
家具の装飾では、最後に周囲の飾り面取り加工をするこことは一般的ですが、額縁は、家具以上に色々凝った装飾を思う存分試せる場面でもあります。
トリマーの特徴であるビットの交換をするだけで、様々な装飾が出来る飾り面取り加工で製作した額縁をご自分の部屋の中に飾って楽しんで頂けたらと思います。
また、DIYで製作した額縁は、世界に1つしかないものですからプレゼントにすると、きっと喜ばれることでしょう。
額縁は100均でも購入出来ますが、木工DIYで作った作品は、お金では買えない価値があると思います。
以上