大入れ継ぎとは
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大入れ継ぎとは上記の画像のように、棚を作る時によく使われる加工で、板厚の幅にぴったりの溝に板をはめ込んでいく木組みのことを言います。
他のほぞ加工と同様に、持ち上げてもそのままの状態を保ち、溝に少しきつめにはめ込まれている状態が理想です。
この加工の特徴は、板の厚みがそのまま溝にはめ込まれているので、しっかりとした強度を保つ点にあります。
大入れ継ぎの種類
単に「大入れ継ぎ」と言うと、はめ込む側の板材には何も加工しないものを指しまずが、板材に加工をするものは、いくつかの種類に分かれます。
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この図は、どんな木組みかが解るように、メス側の溝は全て端から端まで通した加工跡が見えるものを載せてあります。
ただ、一番左側の「大入れ継ぎ」以外、底面の溝が、途中から始まり途中で終わる加工をした場合には、全て縦板の大入れ継ぎの加工跡は見えなくなります。
この加工跡が見えなくなる木組みがどうなっているのか「肩欠き大入れ継ぎ」を例に下記に図示します。
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実際に加工した状態を示したものが、下記になります。
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木組みが見える方は、溝が端から端まで通っていますが、左側(写真では見えなくなっていますが)は溝が途中から始まり、途中で終わっています。
オス側の縦板の前後には欠き取った箇所があり、欠き取らない箇所が溝にぴったり収まる木組みになっています。
縦板の前後にある欠き取った長さは、溝の開始地点と終了地点と一致しています。
欠き取った幅は、溝の深さに一致しています。
この加工をすることによって、前後から見ても大入れ継ぎの木組みの跡が見えなくなり、すっきりした見た目にすることが出来ます。
他の「肩胴付き大入れ継ぎ」も「2方胴付き大入れ継ぎ」も同様に溝と縦板に欠き取る加工をすることで、木組みの跡を見えなくすることが出来ます。
皆さんは、木組みが見える加工と見えなくなる加工と、どちらの大入れ継ぎの方法がいいと感じるでしょうか?
私は、どちらの加工方法も、それぞれの良さがあると思います。
この2つの加工の違いは、下記の2点です。
この、木組みが見える加工と見えなくなる加工のメリットデメリットを上げると、下記になります。
木組みが見える加工
メリット
・はめ込む側の板材を加工する手間がない
・溝を端まで通すだけなので、加工がシンプル
・隙間なく加工出来れば、高度な木組みをしたことをアピール出来る
デメリット
・溝を掘る時に、欠け防止の加工の処理をする手間出て来る
・加工の精度が要求され、隙間が出た場合には見た目が悪くなる。
木組みが見えなくなる加工
メリット
・縦の板材の前後の欠き取る加工に多少の誤差があっても、溝の中で見えなくなるので誤差を吸収出来る
・溝の欠け防止の処理が不要になる
・見た目がスッキリして見える
デメリット
・溝の途中から開始するチルトイン加工が必要になる
・はめ込む板材の前後を欠き取る手間が必要になる
この記事では、いくつかある大入れ継ぎの種類に全て対応出来る、便利な自作治具の作り方を紹介しています。
その後、治具を使って加工の跡が見える「大入れ継ぎ」と、加工跡を見えなくなる「肩欠き大入れ継ぎ」の2つの例を取り上げ、治具の使い方を解説して行きます。
この記事を読むことで、木工の初心者でもトリマーとこの治具を使えば、ネジや釘を使わない大入れ継ぎが出来るようになり、板厚全体でしっかりと結合された強度の高い本箱や棚が作れるようになります。
【大入れ継ぎと肩欠き大入れぎの実例】
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大入れ継ぎの加工の難易度ってどのくらい?
大入れ継ぎは、とても難易度が高くハードルが高い加工だと思われる方が多いと思います。
今回紹介する大入れ継ぎの難易度はどれくらいなのかを判断するため、「難易度」「接合強度」「加工跡の見た目」の3点から、木工作業でよく使われる他の接合方法と比較してみましょう。
星の数が多いほど、その項目の度合いが高いものとして表示してあります。
加工方法 | 難易度 | 強度 | 加工跡の見た目 |
イモ付け(ボンド) | ★ | ★ | ★★★ |
イモ付け(釘打ち) | ★★ | ★ | ★★ |
電動ドライバーを使うネジ止め | ★★ | ★★★ | ★★ |
ネジ止めの跡をダボやダボ栓で隠す | ★★ | ★★★ | ★★★ |
大入れ継ぎ(治具とトリマーで) | ★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
ダボ止め | ★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
大入れ継ぎ(手工具で) | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
難易度は、私の感覚で、上から順に難易度が低いものから難しいものへと順に並べてあります。
一番上の「イモ付け(ボンド)」とは、何も接合するための加工をしないまま、面と面をボンドで接着したものです。
その下の「イモ付け(釘打ち)」は、一般的には難易度が低いものと思われていますが、釘を最後まで曲げずに真っすぐに打つことは、実は難易度が高い作業です。
そのため★2つにしてあります。
隠し釘を使って目立たなくした場合は、ネジ止めをダボ等で隠すものと同じ★3つ程度になるでしょう。
ただ、このイモ付けの加工の致命的な点は、結合する強度が低い点です。
少なくとも家具等を作る場合、全体の強度を左右する骨格部分には避けたい加工です。
ダボを使った接合は、ダボの位置合わせがしっかり出来れば手軽で見栄えもいいものですが、難点は治具を使わないと難易度がとても高い加工だという点です。
尚、ダボを使う加工で失敗しない加工手順については、別の記事「ダボ穴治具の使い方を解説」と「ダボの位置合わせを失敗させない秘訣」を参考にしてみて下さい。
さて、この表の中で注目してもらいたいのは、治具とトリマーを使うだけで、大入れ継ぎの難易度は★3つまで下がると言う点です。
しかも結合する強度は、長年修行した職人が手工具で加工したと時と同じ効果が得られます。

だが、こんなベテランの職人がするような加工が、不器用な私が出来るとは思えないが・・
では、まずいらない端材で一度試してみてはどうでしょう?
一度試してみると、「あれ?出来そうかも・・」
そう、感じたらワクワクして来ませんか?
この記事を読んで加工のイメージが出来れば、きっとチャレンジしたくなるはずです。
チャレンジしてみたら、大入れ継ぎが出来てしまう自分にきっとびっくりすることでしょう。
大入れ継ぎ治具の作り方
大入れ継ぎ治具の設計図
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必要な部材と工具
治具は2つで1セットになり、下記の寸法に切り出した板材で同じものを2つ作ります。
必要な部材
・シナ合板(合板)ベースプレート:5.5 mm x 100 mm x 530 mm 2枚
・パイン材 ガイドフェンス:15(18)mm x 30mm x 500m 2枚
・パイン材 ストッパー用:15(18)mm x 30mm x 140mm 2枚
必要な工具・資材
・トリマー
・電動ドライバー
・10mm ストレートビット
・座ぐりビット
・下穴用ビット
・のみ(治具の角の補修で使用)
・13mm 〜15mmの平ネジ 5〜6本
・両面テープ
大入れ継ぎで加工する溝は、接合強度を考えると、最低でも10mm の板厚の材をはめ込める治具が必要として設計してあります。
そのため、この治具は、10mmのストレートビット専用のものになります。
10mmのストレートビットは切れ味も良く、作業音も低くなるので、とても扱いやすいビットです。
また、10mm以上の幅の溝の加工でも、トリマーの姿勢が傾かないように治具の幅を徐々に広げていけば、10mm以上の幅の加工が可能です。
下記は大入れ継ぎではありませんが、この治具を使って少しづつ削り取る幅を広げて作った、私が製作したお盆の実例です。
この治具があれば、大入れ継ぎ以外でなくても、他に応用出来る範囲が広い治具だと思います。
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同じ治具を2つ作る理由
この治具の原理は、溝にはめ込む側の板材を治具の中央に隙間なくはめ込むことで、現物合わせでトレースした板厚の空間をトリマーで加工するものです。
ほぞ加工のような、精度の高い加工が要求される加工は、サイズ通りに墨線を引いて加工するより、現物合わせで写し取る方が、遥かに楽で、しかも精度の高い加工が出来ます。
別の記事の「段欠き加工と溝加工でほぞに挑戦!|ペン立ての製作例」では、片胴付き大入れ治具の加工方法を紹介しています。
そこでもオスになる側の段欠き加工は、墨線に合わせるのではなく、オス側を溝の幅に現物合わせをしながら少しづつ加工を進めています。
今回紹介する治具は、オス側の押し込む側の板材の寸法を現物合わせするために、両側から挟み込む治具を2つ作ります。
2つの治具を使ってトリマーで加工する時のセッティングは、下記図のようにトリマーを1周させるので、双方を逆向きにセットします。
【トリマー用大入れ継ぎ治具のセッティング方法】
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治具を逆向きにして溝にはめ込む縦板を挟み込み、板材を抜き取った跡には、中央に四角い空間が生まれます。
その空間は、差し込んだ板材の厚みと長さと全く同じ空間が現物合わせをして出来たことになります。
そこをトリマーで加工すれば、差し込む板材とぴったりの溝が掘れるという仕組みです。
上図の左側は、板材をトレースした状態で、右側は、板材を抜き取ってから溝の加工をする時のトリマーの動きを示したものです。
トリマーを動かす向きは、時計回りに動きながら進め、一旦向こう側のストッパーに当たり、そこから右方向に動かし、ここからは、下方に向かって動かす逆切り(クライムカット)になります。
手前のストッパーに当たったら、左方向に動かし1周して、加工は終了します。
製作手順
最初にストッパーになる板材の長さ 140mmの端から40mmの位置に墨線を引き、そこに深さ8mmの段欠き加工をしていきます。
この加工をする理由は、治具を使って溝を掘って行く時、5mm以上の深さの溝を掘る場合に使用する、分割加工治具を通す隙間を作っておくためです。
1)トリマーに10mmのストレートビットを取り付けます。
トリマーのビットの取り付け、取り外しのやり方は、別の記事「木工トリマーの使い方【超初心者向け:初めて触るトリマー】」を参照して下さい。
2)トリマーのビットの突き出し量をトリマーガイドの厚み5.5mm+8mmの13.5mmにします。
この手順は、最も使用頻度の高いストレートの溝を加工するトリマーガイドのと同じです。
尚、自作のトリマーガイドについては、別の記事「トリマーガイドの自作」を参照してみて下さい。
3)この8mmの深さの加工は、一度で加工するとビットに大きな負担を掛けるため、5.5mmの分割加工治具を使用して、2回に分けて加工して行きます。
ビットの突き出し量を1回で済ませることが出来る分割加工治具については、別の記事「自作トリマーガイドの使い方 |もっと使いやすく、もっと効率的に」を参照して下さい。
4)トリマーガイドをクランプで固定し、5.5mm厚の分割加工治具を置き、1回目の加工を行ないます。
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5)2回目の加工は、分割加工治具を外して行ないます。
6)この加工が完了した段階では、墨線の横には幅10mmの溝が掘れていますが、まだ40mmの幅にはなっていません。
再度、分割加工治具を置いて、今度はトリマーのベースプレートを斜めにしながら、ゆっくりとトリマーを動かし、加工を開始します。
トリマーのベースプレートがガイドフェンスから離れたことで、1回目に掘られた溝が大きく右側が欠き取られて行きます。
次に分割加工治具を外し、さらに深く掘り下げて行きます。
【トリマーを斜めにして溝の幅を広げて行く加工の2回目】
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尚、切り取った右端部分は、真っすぐになっていなくても構いません。
次の加工でそこは欠き取られて行きます。
【溝の幅の拡張加工が終わった段階】
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7)トリマーガイドのクランプを外し、右側にガイドをずらします。
既に加工が終わった部分の隙間が少しだけ見える位置でクランプを固定します。
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8)1回目の加工は分割加工治具を置き、その後、分割加工治具を外して加工して行きます。
今度は、少しトリマーを斜めにしただけで、右端部分まで欠き取れると思います。
欠き取り部分に加工残しがないように、何度かトリマーを動かして下さい。
動かしてもトリマーの欠き取る音がしなくなった段階でクランプを外し、加工跡を確認して下さい。
もう、1つのストッパーも上記と同様の手順で加工して行きます。
尚、トリマーを扱い慣れている方は、1本づつ加工するのではなく、墨線を合わせた上で、クランプで2本を固定し、2本同時に加工した方が、手間なく加工出来ます。
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ベースプレートになる、5.5mm x 100mm x 530mmの合板にガイドフェンスの15(18)mm x 30mm x 500mmとストッパーの 15(18)mm x 30mm x 140mmの板材を両面テープで、設計図上の所定の位置に貼り付けます。
【一発止型定規でフェンスの中央にネジが通るための墨出し】
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ガイドフェンスとストッパーのネジ止めをする位置を延長させ、ガイドフェンスの裏側にネジ止め用の墨線を引いて行きます。
いつものように墨線上に、複数のネジ止め箇所にセンターポンチで印を付け、座ぐりビットで底面になるベースプレートにネジの頭が出ないように座ぐりをした上で、下穴を開けて行きます。
【座ぐりビットの加工】
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【ネジの下穴開け加工】
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電動ドライバーで、ネジ止めをしていきます。
【ネジ止め】
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治具が2つ出来上がったら、その後の加工で見分けがつかなくなるため、マジックで「左側用」「右側用」と判別できるようにそれぞれの治具に記入しておいて下さい。
ベースプレートとガイドフェンス、ストッパーが取り付けられた状態は、ベースプレートの幅は、トリマーがガイドフェンスに沿って動かす軌跡よりも幅広くなるように設計されています。
このベースプレートの余分になっている部分を欠き取ることで、今後トリマーのビットがガイドフェンスに沿って動く軌跡は、いつもベースプレートの右端と一致します。
ベースプレートを、ビットが下まで欠き取るので、トリマーの電源が切れている状態でトリマーに10mmのストレートビットを取り付け、下に敷板を置いておきます。
トリマーの突き出し量は、治具のベースプレート上に置き、ビットの先端が敷板に接地した位置でビットの突き出し量を固定します。
切り出すベースプレートは、厚さが 5.5mmのため、一回で切断するとビットに負担を掛けるため、2.5 mm 〜 3 mm の分割加工治具をベースプレートの上に置きます。
トリマーをコンセントに差し込み、ベースプレートに接触していないことを確認し、トリガーのスイッチを入れます。
ビットがベースプレートに接触したままトリガーを入れると、キックバックを起こし、大変危険です。
トリマーのベースプレートを治具のガイドフェンスにしっかりと沿わせてトリマーを前進させて切断を開始する。
【1回目の加工】
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右手はトリマーの姿勢が安定するよう、トリマーの下部を包み込むようにします。
【トリマーの基本的な持ち方】
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トリマーの扱いに慣れていない方は、右側に同じ高さになる敷板を置き、右側のベースプレートを乗せて前進させると、トリマーの姿勢が安定します。
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上の先端にあるストッパーに当たったら、そのまま右側にトリマーを移動させていきます。
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切り出しが完了したら(音が静かになる)トリマーは動かさずそのままの状態でトリガーのスイッチを切る。
(トリマーのビットが回転したまま、トリマーを動かすのは大変危険です)
【1回目の切り出しの完了】
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2回目は分割加工治具を外し、1回目と同様の加工を行ないます。
これで、ベースプレートの切り出しは完了です。
トリマーが、ストッパーに当たって右に移動して切り出した箇所は、ビットが円運動を描いて切り出すため、曲線になっています。
実際に治具を使用する場合に、角になる部分が見にくくなるため、スコヤを当てて墨線を引き、そこをのみで切り取って修正します。
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【修正のための墨線】
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【のみで欠き取る】
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修正は、のみを上から強く押し込むだけで切断が可能です。
切断面にバリがある場合は、全体をサンドペーパーで整えます。
【角の修正の完了】
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もう一方の右側の治具を作る上で、左側の治具と違う点は、トリマーでベースプレートを切り出す時のトリマーの向きです。
【右側用のベースプレートの切り出し時のトリマーの向き】
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通常通りにガイドフェンスを左側に向け、トリマーをガイドフェンスに沿わせて切り出して行きますが、トリマーの向きは、トリマーの刃が見える側を右側に向けて前進させて行きます。
治具をセッティングした時と同じに、手前のストッパーに向けてトリマーを引き下げるように切断してもいいのですが、トリマーは右側のガイドフェンスから逆の左方向へ逃げようとします。
その状態でベースプレートを切断しようとするより、手前から向こう側に前進させる方がトリマーをコントロールしやすいからです。
いつものように、ガイドフェンスを左に向けてトリマーの向きを逆にして前進させると、ビットの回転方向は、いつもと逆になり、トリマーは右方向に動こうとします。
トリマーの下をしっかりと持ち、左のガイドフェンスにしっかりと密着させ、ゆっくりと加工を進めて下さい。
1回目は分割加工治具を使い、2回目は外して加工することも、切り出した角をのみで修正するのも左側の治具の製作と同様です。
【治具の完成】
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治具を使った木組みの跡が見える加工と見えない加工
ここから、作った治具を使って大入れ継ぎの下記の2つの加工方法を紹介します。
1.溝が端から端まで通しで加工されたもの(木組みの跡が見える加工)
2.溝が途中から始まり、途中でわるもの(木組みの跡が見えない加工)
最初に見せた画像のように、この2つの加工方法の出来上がった状態は、全く違ったものに見えます。
【2つの大入れ継ぎを正面から見た状態】
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【2つの大入れ継ぎを斜めから見た状態】
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最初に木組みの跡が見える加工からその手順を説明していきましょう。
使用する板材は、どちらも18mmの板厚のパイン集成材を使用します。
溝の深さは、どちらの加工も8mmで加工して行きます。
端から端まで溝を通す大入れ継ぎの加工手順
この加工は、溝の端から端まで通すだけなので、シンプルな加工です。
はめ込む板厚をトレースする
底面となる板材の木端面に差し金を当て、木端面に対して垂直の墨線を端から端まで通して引きます。
尚、正確な差し金を使った墨線を引きには、別の記事「木工DIYの精度を決める墨線の引き方」を参考にして下さい。
私の場合は、「墨線の右側に板材を置く」という自分のルールを作っているので、墨線はこの基準線1本で済ましています。
1本の墨線を引く場合、板材が右に来る印として墨線のを右側に「→」と書いておくと後で迷いません。
もちろん、慣れない方や自分のルールをお持ちの方は、底面に置く板厚分として墨線を2本引いておいて下さい。
底面に書かれた墨線の右に、右側用治具のベースプレートをぴったりと合わせ、クランプで固定します。
そこに、縦板になる板材をベースプレートに密着させて置き、左側用治具を反対側から挟み込むように置きます。
尚、挟み込む際には溝は端から端まで通して加工するので、2つの治具のベースプレートの上下には、トリマーのビットが接触しない空間を開けておいて下さい。
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ここではめ込む縦板の厚みを、現物合わせで治具にトレースしようとしています。
クランプを用意し、何度か縦板を引き抜きながら、2つの治具で挟まれた縦板に隙間がなく、少し抵抗を感じる位置を見つけ、クランプで固定します。
挟み込む状態を微調整したい場合、ゴムハンマーで治具の横から軽く叩きながら行なうと微調整が楽に出来ます。
【ゴムハンマーによる微調整】
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位置が決まったら、はめ込んだ縦板は抜きます。
この作業でクランプで固定された治具と立板に隙間があると、加工後にはめ込むと隙間が出来てしまいます。
逆に、あまりきつくはめ込み過ぎていると、加工後に縦板が溝の底まではめ込めなくなってしまいます。
求める溝の深さは8mmなので、一度で加工するとトリマービットに負担を掛けるため、3mm前後の分割加工治具を段欠き加工をしておいたストッパー先端の隙間から差し込みます。
【分割加工治具を差し込む】
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以上で治具のセッティングは完了です。
トリマーによる溝加工の手順
トリマーの電源ケーブルをコンセントから外した状態で、10mmのストレートビットを取り付けます。
トリマービットの突き出し量は、これからこの治具の上に乗せて加工するので、溝の深さ8mmに治具のベースプレートの板厚 5.5mm を足した13.5mmにします。
このトリマーによる溝の加工の留意点は、溝の出口が木の繊維方向に直角になるため、欠け防止のためのクライムカットをする必要がある点です。
これから縦板の板厚をトレースした空間にトリマーを時計回りに動かして行きますが、欠けの発生しやすい溝の出口が、向こう側左と手前側右に、2ヶ所存在します。
そのまま加工してしまうと、そこに欠けが発生しまう可能性が高いので、その2カ所には、クライムカット(逆切り)をしておきます。
【溝の向こう側出口にクライムカットをした状態】
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もう、1ヶ所の手前側出口付近にもクライムカットをします。
【手前側溝の出口付近にクライムカットをした状態】
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トリマーの溝加工の出口の欠け防止については、別の記事「トリマーで加工する溝加工の2種類の中の「溝の加工の出口で発生する欠けの防止策」で詳細に説明していますので、参考にしてみて下さい。
トリマーのビットと板材が接触していないことを確認し、トリマーのトリガーを入れ、ゆっくりとトリマーを前進させて行きます。
向こう側の出口まで加工したら、そのままトリマーを右に移動し、ガイドフェンスに沿わせながら、手前に引いて行きます。
ここからは逆切りをしていくので、トリマーは左側に逃げようとします。
トリマーの下部をしっかり持ち、ゆっくりと手前に引いて行って下さい。
トリマーが1周したら、分割加工治具を外し、2回目の加工を開始してます。
この2回目の加工が終わった段階で、削り残しがあると縦板をはめ込めなくなります。
一度トリマーを移動させた箇所に削り残しがないか、2周ほどトリマーを移動させ、削り残しがないようにして下さい。
ただ、ビットを四角を描くように動かしているので、溝の中央にバリが出ていることがあります。
バリが目立つ場合には、ゆっくりと溝の中央にビットが当たるように動かして削り取って下さい。
クライムカットした溝の出口付近2カ所は、どうしてもバリが発生します。
欠けではないので、丁寧に木の繊維に沿って、紙やすりでバリを除去して下さい。
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縦板にする板材を溝にはめ込んで、掘られた溝の底までしっかりと入るかどうか確認して下さい。
少しきつめに押し込んで、前後共にすっぽりと入り、はめ込んだ縦板を持って持ち上げると、そのまま底板が一緒に持ち上がれば加工は成功です。
すぐに抜けてしまう状態だと、縦板を両側から治具で挟んだ時に隙間があったためです。
残念ながら、修正は不可能です。
再度、別の板材で治具のセッティングに留意して再挑戦してみて下さい。
きつ過ぎて入らない場合は、セッティング時に、強く締め過ぎたか、削り残しがあるためです。
上に木端面に当て木をして、ゴムハンマーで叩いて押し込んでみて下さい。
どうしても溝に縦板が底まで入らない場合は、再度治具に縦板をセッティングして、再加工してみて下さい。
一般的な家具製作の場合、上の位置にも同様に大入れ継ぎ加工用の溝を掘り、溝にはボンドを塗り、クランプで上下から締め、大入れ継ぎを固定して行きます。
途中から始まり、途中で終わる溝加工の手順
この加工でも、溝の深さは8mmで加工して行きます。
溝の開始地点と終了地点は、底板の木端面からそれぞれ20mmの位置とします。
端から端まで溝を加工したものとの違いは、下記の2つの加工が必要になります。
1.溝の開始位置が板材の途中からのため、トリマーでチルトイン加工が必要
(トリマ―のチルトイン加工のやり方は、別の記事「トリマーで加工する溝加工の2種類」の中の「板材の途中から始め、途中で終わる溝加工」に詳細を説明してあります。そちらの記事も参考にしてみて下さい)
2.差し込む側の縦板の前後に幅20㎜(木端面からの溝の開始・終了地点)で縦に8mm(溝の深さ)の箇所を欠き取る加工をする
では、順番に加工の手順を説明して行きましょう。
はめ込む板厚をトレースする
底板の木端面に差し金を掛け、設計図にある所定の位置に木端面から垂直になる墨線を引きます。
その後、溝の開始位置と終点の位置に横に墨線を引きます。
左側用の治具を墨線にぴったりと合わせます。
その後、治具の作成時に角を修正して直角になったベースプレートの箇所を墨線の終点位置に合わせ、クランプで固定します。
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縦板になる板材は、はめ込む時の状態ではなく、向きを縦にして左側用治具のベースプレートののみで修正して直角になった角に隙間なく置き、右側用治具を挟み込ん行きます。
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これは、溝に縦板をはめ込む向きで治具に置くと、溝の開始地点と終点の位置を縦板が覆ってしまうからです。
縦板を縦にした状態で挟み込むと、向こう側の溝の終点の位置に引かれた墨線に、ぴったりと合わせて置いた治具のベースプレートの角に縦板の角がぴったりと収まります。
その状態で右側の治具を挟み込めば、板厚は向きを変えても同じなので、問題なく縦板の板厚を治具にトレースすることが出来ます。
縦板を挟みながら、右側用治具のベースプレートの手前側に引かれた溝の開始位置の墨線にベースプレートの角を合わせます。
この状態で、何度か縦板を抜き差して、少しきつめで挟み込む位置を見つけ、右側用治具をクランプで固定します。
クランプで固定した後、トレースした縦板は抜き取ります。
この加工でも、溝の深さは8mmなので、3mm前後の分割加工治具を治具の隙間から差し込みます。
これで、治具のセッティングは完了です。
トリマーによる溝加工の手順
この加工では、溝は全て板材の内側なので、欠けは発生しないため、クライムカットは不要です。
ただ、溝の開始位置は板材の途中からなので、チルトインで加工を開始します。
【チルトイン加工】
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トリマーを溝の開始位置より少し前に置き、トリマーを斜めに傾かせ、何度か左のガイドフェンスに沿って下りるトリマーの軌跡をイメージし、トリマーの動きを確認します。
トリガーのスイッチを入れ、ビットの回転が安定したらゆっくりとトリマーをガイドフェンスに沿わせて下ろして行きます。
トリマーの視線が安定したら、一度手前側に引き寄せ、ストッパーで止まったら、ゆっくりと前進させて行きます。
トリマーが右側用治具のガイドフェンスを手前に引く時は、トリマーが左方向に逃げようとします。
トリマーの下部をしっかり持ち、ゆっくりと手前に引いて行って下さい。
手前のストッパーに当たったら、左方向に移動し、ガイドフェンスに当たったら1回目の加工は終了です。
切り残しが無いよう、2回ほど1周させて下さい。
【1回目の加工】
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2回目は分割加工治具を外し、1回目と同様にチルトインで加工を開始します。
切り残しがないように2周ほどトリマーを移動させ、溝の加工は終了です。
トリマーによる縦板の欠き取り加工
縦板に、今加工した途中から始まり途中で終わる溝にはめ込むための欠き取り加工をして行きます。
加工する範囲は、縦板の前後に幅20㎜(木端面から溝の開始と終了地点)縦に8mm(溝の深さ)です。
縦板の下部にこの大きさの欠き取った箇所が出来れば、欠き取った箇所は底板の上に乗り、欠き取らなかった箇所は溝の中にすっぽりと収まります。
欠き取る方法は、手引きのこ、のみ、電動ジグソー等でも可能ですが、この記事ではトリマーで加工する方法を紹介します。
難易度もそれほど高くないので、是非、挑戦して加工の幅を広げて下さい。
パターンビットとその使い方
この加工でトリマーに取り付けて使用するビットは、「パターンビット」と呼ばれるビットです。
【使用するパターンビット】
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一番下に刃があり、その刃と同じ直径のベアリングが刃の上に付いています。
パターンビットの一般的な使い方は、同じパターンの描く板材をいくつも作る場合に使われます。
例えばブックエンドの製作で、縦板は動物のシルエットにしたい場合、最初に合板にシルエットを描き、ジグソーで切断して原版を作ります。
作った原版の下に加工したい板材をクランプで固定し、パターンビットで合板の木口に沿ってベアリングを動かしていくと、その下に同じシルエットの溝が掘られて行きます。
2回目からは、一番上に置いた原版を外しても、既に1回めで加工した跡をベアリングがなぞっていくので、原版は不要になります。
徐々にビットの突き出し量を増やし、一番底部まで切り出して行きます。
以降、原版を一番上に置いて加工を繰り返していけば、同じサイズ、同じパターの板材を何枚でも切り出して行くことが出来ます。
これから縦板の欠き取る加工に、このパターンビットを使って加工して行く手順を紹介します。
尚、私の持っているものは刃先が5mmのものですが、刃先が10mmのようにもっと長いものもあります。
ただ、今回のような欠き取る加工に使時、刃の長いものはお勧めしません。
それは、長さがあっても、実際にビットの負担なく欠き取るには、限度は5mm前後だからです。
また、刃が長いとベアリングの位置が上になり、トリマーの突き出し量を決めることが難しくなります。
長いものは、板の木端面を均一にして行く時には活躍しますが、欠き取る加工には不向きです。
縦板の切り欠き加工の手順
縦板の底面にはめ込む側の下部に、前後2ヶ所に幅20mm(木端面からの溝の開始・終了地点)と縦に8mm(溝の深さ)の墨線を引きます。
この墨線で囲まれた部分をこれから欠き取って行きます。
板厚5mmの合板は、分割加工治具を使って結構です。
いつも使う、分割加工治具の短いもの2枚を用意して下さい、
2枚短いものがなければ、1枚は長いものでも大丈夫です。
その裏に両面テープを付け、加工する縦板に固定します。
1回目の加工では、この合板で作られた壁にパターンビットのベアリングが沿って動き、合板で囲まれた内側が削られて行きます。
【合板のセッティング】
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尚、この加工の最後は、一番下まで欠き取るので、欠け防止のため、敷き板を縦板の下に敷き、板材をクランプで固定しておいて下さい。
パターンビットのべアリングの上にビットの軸を覆う筒状の金具(写真の金色の部分)がある場合、その金具が動かない位置でトリマーに取り付けて下さい。
【パターンビットの取り付け方】
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パターンビットの位置は、2枚の合板の木口面に沿って、刃先がその下の縦板を削る位置になっている必要があります。
トリマーの電源をコンセントから抜いた状態で、横からパターンビットの位置を確認し、トリマーの突き出し量を調整して下さい。
【パターンビットのベアリングと刃の位置を確認】
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トリマーの電源ケーブルをコンセントに差し込み、ビットが板材に触れていないことを確認してからトリマーのトリガーを入れ、加工を開始します。
トリマーを手前から進入させ、ベアリングが合板に沿って動いているのをイメージしながら前進させ、突き当たったら右方向の時計回りに動かして行きます。
切断が終わったら、(音で解ります)トリマーはそのまま動かさずに、トリガーのスイッチを切ります。
加工した跡を見ると、角はRになっていて、板厚で囲った部分がそのままの幅で削られているのが確認出来ます。
【パターンビットの加工跡】
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ビットの突き出し量を少し増やし、2回目の加工を開始して下さい。
2回目以降は、上に貼った合板を外しても大丈夫です。
ビットは1回目に削り取った箇所にベアリングが沿って動き、合板がなくても同じ軌跡を描いて削り取って行きます。
最後の一番底面まで削り取る段階で、板厚によって一番上に合板を乗せた状態だとビットの突き出し量が限界になる場合があります。
その場合は、一番上に乗せた合板は外せば届くようになるはずです。
それでも届かない場合は、固定されたビットを一度ゆるめ、ビットを少しだけ下げた状態にして届く位置に修正して下さい。
【パターンビットで欠き取るビットの位置(刃先が敷板に接地した状態】
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上記の手順で、縦板の前後2ヶ所に加工を進めて行きます。
欠き取った箇所の角はRになっていますが、木組みの強度には関係なく、その部分は溝の中で見えなくなるので、そのままにしておいて問題ありません。
加工が終わった縦板を溝にはめ込んで確認し、下記状態に応じて修正をしていきます。
状態 | 原因 | 修正方法 |
縦板が溝の奥まで入らない | 1.縦板が溝の奥まで入らない | 治具を当て、溝の深さを増す |
2.溝の幅が狭すぎる | 治具を当て、溝の幅を広げる | |
3.縦板の加工した位置がずれている | 欠き取った箇所を広げる |
上記の1.2.の修正は、一度に削り取る量は微量にしておいて下さい。
一度加工したら、縦板をはめ込み、少しづつ再加工するといった手順です。
削り過ぎてしまうと、その後の修正は不可能になってしまいます。
溝と縦板がゆるく、すぐ抜けてしまう状態は、残念ながら修正は不可能です。
その意味でも、最初の縦板をトレースする治具の挟み具合が、大きなポイントになって来ます。
3.の縦板の欠き取る部分に多少の誤差が合っても、縦板をはめ込むと溝の中で見えなくなるので誤差が吸収出来ます。
はめ込む確認が終わり、加工に問題がなければ、溝と縦板の加工した箇所にボンドを塗り、クランプで固定して行きます。
まとめ
今回の大入れ継ぎをするための治具は、参考になったでしょうか?
このサイトでは、今まで熟練した職人だけしか出来ないと思われている木工作作業でも、ちょっとした便利な工具や工具に使い方を知ることで、木工初心者の方でも、短時間に作業のレベルアップが出来ることを目指しています。
その典型的なものが、トリマーと自作治具を使った加工です。
トリマーは、一般的には、馴染みのない電動工具ですが、扱いに慣れて来るとその出来栄えは、まるでプロが作った作品のように違って来ます。
今回紹介した大入れ継ぎ用治具は、とても応用範囲の広い治具です。
別の記事「段欠き加工と溝加工でほぞに挑戦!|ペン立ての製作例」で紹介した段欠き加工は、片胴付き大入れ継ぎで作ったものです。
そこでは、この治具は使っていませんが、この治具を使えば、もっと簡単に製作出来ます。
また、片胴付き大入れ継ぎの加工跡を見せない加工も出来ます。
是非、皆さんの日頃の木工作業のレベルアップに役立てて頂けるのを願っています。
以上